「判例道場」第12回

【第11回解答】

労働基準法81条の定める打切補償の制度は、使用者において、相当額の補償を行うことにより、以後の災害補償を打ち切ることができるものとするとともに、同法19条1項ただし書においてこれを同項本文の解雇制限の適用除外事由とし、当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるものとする制度であるといえるところ、労災保険法に基づく保険給付の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば、同法において使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで、同項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難い。また、後者の場合には、打切補償として相当額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養補償給付がされることなども勘案すれば、これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くことになるものともいい難い。

そうすると、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては、同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるとみるのが相当である。

A ① 休業手当 ② 休業補償 ③ 災害補償 ④ 賃金の支払

B ① 同項ただし書の適用 ② 同法12条の8第1項1号の適用 ③ 労働基準法75条の適用 ④ 労働基準法81条の適用

〔解説〕

  • 科目「労働基準法」:難易度「難問」
  • 解答根拠

最判平成27.6.8「専修大事件」

  • 事案概要

業務上の疾病により労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が、療養開始後3年を経過しても職場復帰をすることができないことが明らかになったため、使用者が労働基準法81条に基づき、当該労働者に打切補償(平均賃金の1,200日分)を支払って解雇する旨の意思表示をしたところ、当該労働者が労働基準法81条にいう「法75条〔療養補償〕の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷疾病がなおらない場合においては、…」に該当しないとして、その解雇の無効を訴えた事案

  • 論点

労災保険法による療養補償給付を受ける労働者(療養開始後3年を経過している者)につき、使用者が労働基準法81条所定の打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることを根拠として当該労働者を解雇することができるか

  • 結論

できる(労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、使用者は、当該労働者につき、同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるものとするのが相当である。)

【第12回問題】

労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への C を行おうとする趣旨によるものである。

〔選択肢〕

① 啓発 ② 補償 ③ 利益供与 ④ 損害賠償

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